2024-03-26

中谷一馬は指名手配書に並んでいた

中谷一馬は、凶悪な指名手配犯とともに写真が公開されていた。

彼の写真が目に飛び込んできたのは、神奈川の街をドライブしているときだった。光沢のある大きな紙のうえに、素人が隠し撮りしたような荒い写真、ゴシック体で《中谷一馬》と挑戦状のような一言。両隣りには、警察が用意したであろう薬物乱用を訴えるポスターが一枚と、凶悪な指名手配犯が8名、懸賞金とともに張り出されていた。

時速50キロで走行中の私が中谷の写真を確認できたのは一瞬のことだったので、得られた情報は限定的なものだったが、おそらくは誘拐犯か放火魔、あるいはテロリストの類だろうと予想した。写真の男はわずかに笑顔を見せているものの表情はぎこちなく、髪は無造作で無個性な灰色のシャツを着ていたからだ。張り紙のサイズから察するに、それなりに高額な懸賞金がかけられているのだろう。私は暇を持て余していたし、昔から《ウォーリーを探せ》が得意だったので、中谷を探してみることにした。ここでひとつ手柄をあげれば、あれが買えるかしら、これも買おうかしらと、宝くじの当選を夢見る老夫婦のように期待に胸を膨らませていた。

中谷は簡単に見つかった。駅前の一番目立つところに突っ立って、ビラ配りをしていたからだ。私が様子を伺うために近づくと、先ほど見た写真とは全く異なる姿の中谷がいた。整えられた髪に実直なスーツ姿、肩からは衆議院議員と書かれた襷をかけていた。なんということでしょう、指名手配書と並べて張り出されていたので勘違いをしてしまったが、彼は誘拐犯でも放火魔でもなく政治家だったのだ。凶悪犯を捕まえて一攫千金を手にするという私の夢は無為になった。

帰宅後、彼のことをインターネットで調べるとこのように書かれていた。「中谷一馬は、母子家庭の貧しい環境で育ち、一度社会に出たのち、大学に復学して博士号を取得。上場企業の執行役員を勤めた後、元総理大臣の秘書を勤め、27歳で県政最年少議員として当選した。」疑ったことを土下座して謝罪したくなるほど優秀な男だった。経歴はユニークで、言葉には情に訴えるものがあり、おまけに上等なとうもろこしのように歯並びがよかった。いささかラーメンを食べ過ぎているきらいはあるものの、それ以外に問題と呼べそうな点も見られなかった。私が神奈川県民であれば喜んで一票を投じたいと思える人物だった。

警察の諸君、選挙のポスターの隣に指名手配書を並べるのはやめた方が良い。それから薬物乱用の張り出しも。あれじゃほとんど名誉毀損だから。

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