とっておき

二十歳の夏。私はエジプトにいて、アラブの遊牧民たちと砂漠でキャンプを張っていた。雲ひとつなく視界も良好だったため、日没とともに満天の星空が広がり、いつしか水面を飛び跳ねる魚のような頻度で流れ星まで現れた。

ふと《星に願いを》という言葉を思い出した私は、流れゆく星に指を差し、「宇宙一のお金持ちにしたまえ」とか、「来世までモテモテにしたまえ」とか、「お肌にあの頃のツヤとハリを与えたまえ」など、思いつく限りの願いを唱えてみることにした。

そんな作業を小一時間ほど続けた私は、遊牧民の長老にそのことを誇らしげに話した。もうじき僕は成功者になるんだと。しかし長老は、そんな前途有望な若者をまるで足拭きタオルでも見るかのように一瞥したのち、ため息をついてこう述べた。

愚かな君には理解できないかもしれないが、《星に願いを》はそんな都合の良い話じゃない。君が金持ちになりたいなら、「金持ちになりたい、金持ちになりたい、金持ちになりたい」と朝も昼も夜も純粋に想い続けるんだ。そうすれば、星が降る刹那の瞬間にも願いを忘れない。そういう者だけが願いを形にするんだ。愚かな君には理解できないかもしれないが。

 

ひとつの物語が世界の見方を一変させてしまうことがある

これは私が長老から教わったひとつの教訓だ。

あるときから、私もそんな気づきを与えられる人物になりたいと、ルービック・キューブを解くみたいに、物事をいろんな角度から見るようになった。星や月を眺め、風や虫の音に耳を傾け、土や草の匂いを嗅いだ。そうして季節ごとに物語を描き残した。

興味を持っていただけるなら貴方に贈りたいのだが、受け取ってもらえないだろうか。

 

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