三田直樹は日本の地下に賢者の石を見つけた
三田直樹は、病を消し去る賢者の石を日本の地下に見つけた。
2011年の春、三田は日本の地下に秘宝が眠っていることに気が付いた。それは、水に溶かして身体に取り込むことで、全ての病態、全ての病気、全ての病弊を追い出す賢者の石になり得る資源だった。三田の見立てでは、地球上にあるそれの約九割は、日本列島に存在していた。この資源の将来性について、おそらくは世界で自分以外に未だ誰も気づいていない。そう考えるとうまく眠れず老衰しそうになった。三田は国際的な金融機関で活躍するエリートだったが、すぐに辞表を提出し、資源の研究を行うことにした。
全てのきっかけは大震災だった。ウォール街の敏腕トレーダーだった三田は、震災による変動の波を捉え、莫大な利益を会社に計上した。ひとりの相場師として、正しい仕事をしたと賞賛されたが、同胞が命を落とした壊滅的な厄災を『仕事の材料』と扱っている自分に、言葉にできない虚無感を感じていた。俺はいったい何がしたいんだろう、目の前が暗くなり休暇を取ることにした。人生で初めて湯治を試してみようと、秋田の温泉宿を訪れたが、すぐに身体に異変に起きた。鼻から血が流れ、全身に赫い斑点が現れたのだ。急いで医者にかかると、心配はないと言われた。これは代謝による反応で、内臓のエンジンがかかって老廃物を押し出しているのだと。翌日には羽が生えたように身体が軽くなっていた。これが湯治か、これまでの温泉は何だったんだ。
その日から三田は、不老不死の薬を生み出さんとする黒魔術師のように、湯治の魅力に取り憑かれた。太古の鉱石のスープである温泉は石油の素であること、微量要素のミネラルが万病と闘える武器になること、精製と真逆の粗製を行えば温泉の成分は万倍まで増強できること。知れば知るほど、学べば学ぶほど、湯治と温泉の可能性は広がるばかりだった。自宅のガレージで研究を重ね、ときに温泉地を訪れては、土や岩肌を舐め、土壌の質を身体にも覚え込ませた。その様子を見た周りの者たちは、のぼせて気が狂ったかと心配したが、三田は岩肌を舐め続けた。
二年半の研究を経て、国際特許を取得した《温泉のエキス》は、蒸気化させることで都心での湯治を可能にし、肌荒れや二日酔いをまるで無かったことにすると、アスリートや経営者から強く支持された。ものの数年で、ドバイやオマーン、ニューヨークにも店舗を拡大し、温泉は日本の国益という志が現実のものとして見えてきた。三田の作った《ルフロ》に浸かると、日本って日(火)出る国だと、つくづく思う。
コメント3件
岩肌を舐め続けた、のくだりがおもしろすぎて、飲んでいたコーヒーを吹き出しました。
おもしろいことを言うなら、事前におしえて欲しいです。
宝とは気づかないだけで、案外近くにあるものなのかもしれませんね。それを賢者の石にするかはその人次第。改めて、日本という宝が眠る国に生まれたことを幸せに思います。《ルフロ》で羽を生やしてみます。
日本の地下に存在している賢者の石とは何だろう、と気になって読み進めました。
まさかの温泉!!
これほどの劇的な反応が起こる事もあるとは驚きです。
日本が火山や地震が多い立地という意識はありましたが、温泉資源の約九割が日本にあるという事は、ほとんど意識していませんでした。
よく考えれば納得ですが、目から鱗でした。
温泉の効能を凝縮した《ルフロ》試してみます。