歳國真吾はゴールドジムから永久追放された
歳國真吾は、筋肉を付けすぎたことで、ゴールドジムから永久追放された。
ゴールドジム名古屋錦店に通う鈴木靖子(68)は、初めて歳國の筋肉と遭遇した際、そのあまりの大きさに腰を抜かしてしまった。後日インタビューでこのように証言している。
「ベンチプレスに陸亀がいる!と思ったら、あの男の大胸筋でした。驚かすにもほどがあります。まったく迷惑な話です。」
従業員である田辺敏夫(42)も、清掃中にシャワールームから出てきた歳國の背中と鉢合わせになり、その筋密度に圧倒されて腰を強打してしまった。
「長年ジムに勤めてきましたが、あんな背筋群は見たことがありません。まるでQRコードです。」
そのように各方面からの申し立てが相次いだ結果、歳國は入会後まもなく、ゴールドジム全店から永久追放されることとなった。当時の関係者だけが知る闇に葬られた事件である。
しかし意外なことに、数年前までの歳國はパンダのようにふくよかで、アルパカのように温和だった。よく言えば「話しかけやすい人」であり、悪く言えば「面倒に巻き込まれやすい人」だった。
たとえば、街を歩けば素行の悪いごろつきに絡まれ、仕事をすれば不条理なクレイムの矛先となった。怪しい儲け話や宗教を持ちかける最優良物件として標的にもされていた。
そのような社会の理不尽は、必然的に彼をボディ・メイクの世界へと誘った。ドウェイン・ジョンソンや室伏広治に八つ当たりする上司の姿を想像できないように、ただ体を鍛えるだけで余計なしがらみから解放されるならと意を決した。そしてまったくその通りになった。
歳國が100kgのベンチプレスを持ち上げられるようになったとき、街で不良に絡まれることは愚か、顧客や上司、社長でさえも、彼に横柄な態度を取ることはできなくなっていた。
膨れ上がった大胸筋はファイヤー・ウォールとなり、引き締まった上腕筋はウイルス・バスターとなった。服を脱ごうものなら核兵器と同じだけの抑止力が働いた。おまけに筋肉からは放射能も出ないから環境にも優しかった。
自信と尊厳を取り戻した歳國は、魅力的な女性と結婚し、会社を辞めて事業を興した。冤罪が晴れて釈放された市民が、失った時を取り戻そうとするように。そして彼は鍛錬にもより一層力を入れた。
自身に厳しく目標に妥協がないのは、間違いなく彼の持つ美徳だ。それでも物事には限度というものがあり、彼は適度なところで止めるべきだったのだ。少なくともゴールドジムが手を焼くほど鍛えるのは、歳國の側にも非があるのだから。
Leave a Reply