車に住んでいる理由
肖像作家ナナシへの質問
あなたは車に住んでいると耳にしたのですが、つまりはホームレスということなのでしょうか。住民税や固定資産税はちゃんと払ってるのかしら。社会人として自覚を持ってしっかりしてください。
長野県60代女性、SEKAI NO OWARIさん
ご指摘のとおり、私には帰るべき家がありませんので、税務上の区分けとしては、ホームレスに割り当てるのが妥当かと思います。もちろん納税はしておりますが、どこかの会社に勤めたという経験もなく、三十を過ぎた今でも作品の支援者から施しを受けて生きていますので、社会人としての自覚が致命的に欠けているという指摘にはぐうの音も出ません。しかし思うに、人には特性というものがあるのではないでしょうか。あのポケモンでさえ、炎タイプや草タイプがいるわけですから、いわんや人間においては無数の属性があるはずです。私は季節ごとにお引越しをしなければストレスでお腹をくだしてしまう《渡り鳥タイプ》なので、定住を勧められても困ってしまいます。たとえるなら、獰猛なライオンに向かって「レタスを主食にしませんか」というようなものです。
補足をさせていただくと、私が暮らす住まい(車両)は、いわゆる普通の車ではありません。内装には建築用の資材をつかい、制振、断熱、防音の基礎工事をおこなったのち、無垢の楢(オーク)の板を全面に打ちました。太陽光発電や雨水の集水濾過装置、オイル・ランプに薪ストーブ、製氷器からワイン・グラスにいたるまで、ひととおり揃えておりますので、子鹿のグリルからすずきの紙包焼きまで、簡単なおもてなしの用意はございます。一度遊びに来ていただければ、これが単なる車ではなく、車輪がついた別荘だという印象に変わるかもしれません。もちろん、税務上のホームレスであることにちがいはありませんが。
おおよそのことは車内で完結しますが、足りないものは外で調達をします。森で湧水をくみ、山で温泉につかり、海でビールを飲むといった具合です。月に何度かはホテルに泊まるので、ゴミの処理や洗濯でお世話になることもあります。慣れた今でも、ときおり不便さを感じることはありますが、考えようによっては、無職の私にはこのくらいが分相応なんじゃないかと思っています。家を捨ててから支出が激減したので、ますます働く必要がなくなり、睡眠時間が増えて身長が伸びました。雲海やオーロラが一日でみれなくても、それが現れるまでそこに留まれるというのも、この生活が素敵なところかもしれません。
念のため断っておきますが、ホームレスを推奨しているわけではありません。快適で安心な住まいを手放し、車ひとつで生活はじめるなんて、カタツムリがナメクジになるようなものですから。
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