浅野徹也は逮捕されてもおかしくない元警察官だった
浅野徹也は、いつ逮捕されてもおかしくない、元警察官だった。
徹也は、元警察という経歴が嘘くさく聞こえるほど奇抜な男だった。独りでディズニー・ランドを訪れたかと思えば、海外のスラム街や麻薬取引の現場に出没したり、お遍路の感覚で戦跡を巡ったりしていた。行動自体が不審な上に、長く伸ばした髪を桃太郎のように鮮やかなピンク色に染めていたので、とにかく悪目立ちをしていた。駅で待ち合わせをすれば、群衆のなかの徹也は、雪景色でカラスを見つけるようなものだったので、有り難くもあったが、その反面、頻繁に職質の対象に選ばれていたので、待たされることは常習的だった。取り調べの最中、徹也は警察官に向かって、自分も同類なんだと訴えたが、彼が説明をするほど事態はややこしくなった。
徹也は、清々しいほど計画性というものを持たない人物だった。ある時、宝くじに当選したかのように、長年勤めた警察署に辞表を提出し、動画投稿を始めたのだが、その内容は、「警察学校の闇!」や「退職金を完全公開!」など、職務規定のギリギリアウトを攻めていた。また別のある時には、何をとち狂ったのか、タイ王国の離島に移住すると言い出したこともあった。彼の所持金はわずかばかりだったし、タイ語はおろか英語も話せなかった。日本語さえ怪しいところがあったので、親兄弟からは説得をされたが、徹也は変な蟹の帽子を被って旅立っていった。もし彼に計画性というものがあったとするなら、それは《一貫して計画を持たない》という意味で計画的だった。
それだけ不可思議な動きをしておきながら、徹也には天性の愛嬌が備わっており、本当に憎めない性格をしていたので、周りにはいつも人の気配があった。がむしゃらな情熱は、少年漫画の主人公のように無邪気で毒気がなかったし、刺激的な動画は(一時的とはいえ)退屈な日常を忘れさせてくれた。それは合理的・打算的に生きてきた者ほど、胸を打たれるものがあった。だから徹也が(無計画にも)新しい何かを始めるたびに、一枚噛ませてもらおうと、匂いを嗅ぎつけた物好きがわらわらと集まっていた。画家やピアニストなど、創作だけで食べていける者は極めてひと握りだが、徹也はそんなアーティストのひとりに仲間入りを果たした。
計画的無計画な桃太郎は、次に何をおっ始めるのだろうか。視聴者を増やすためにきびだんご教室に通うかもしれない。プレゼント企画でそれを配り出すかもしれない。気になってしまったのなら、《コテツ》を購読するしかないだろう。
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