青木康はケチくさい貧乏人を店に寄せ付けなかった
青木康は、ケチくさい貧乏人を店に寄せ付けなかった。
居酒屋の店主である青木は、来店するお客様に気持ちの良いサービスを提供するため、三つの独自ルールを定めていた。ひとつは、ケチくさい貧乏人には徹底した塩対応をすること。ふたつは、偉そうな酔っ払いはすぐに追い出し、二度と敷居を跨がせないこと。そして最後は、クレームを付けるような馬鹿は、店から叩き出して罵声を浴びせたのち、五万名の読者を抱えるソーシャル・メディアで晒すというものだった。上記三点に該当しない限りは、気持ちの良い接客で、安くて美味しい料理を振る舞うように心がけていた。
青木の店を訪れるほとんどは良いお客だった。だからこそ、ごく一部の面倒な客の機嫌を取るために、自分が走り回るというのは、本来大事にすべき人を粗末にすることになると考えていた。煩い車輪に油を注ぐ暇があるなら、育てたい花に水をやるべきではないか。身体に気を遣うなら、栄養を摂ることより、毒を抜く方がまず先なのではないか。おおよそそのような思考回路によって、青木は悪質な酔っ払いを追い出した。翌日、従業員に笑顔が増え、店の雰囲気が良くなった。なるほど、これまで遠慮していたが、馬鹿はすぐ追い返せばいいのか。デトックスの素晴らしさに気づいた青木は、大声を出す者、居眠りをする者、飲まないのに居座る者を、ひとりまたひとりと店の外につまみ出した。お酒好きの常連が増え、仕事が楽しくなり、店は前よりも繁盛した。
唯一の問題は、青木の店は繁華街から外れた場末の大衆居酒屋だったので、どうしても一定の割合で馬鹿が流れ着いてしまうということだった。便座が汚れてから除菌をするのではなく、あらかじめトイレ・スタンプで抗菌をするように、馬鹿を寄せ付けない仕組みは考えられないだろうか。そこで次に取り組んだのが、インターネットで晒していくという水際防衛策だった。
青木は、良い評価を残してくれた普通のお客には返事をしなかったが、悪い評価を書き込む馬鹿には、一件一件丁寧に返事をした。貧乏人は他所へ行け、馬鹿な舌にはわからん、店員の態度はお前の写し鏡など、長文でどこが悪かったのか指摘をしていた。その物言いは清々しいほど無遠慮だったので、同じように悪い顧客に苦しめられるサービス事業者から、爆発的に支持をされた。青木の店『かどや』を訪れて普通にしていれば良くわかる。本来の彼は人情味あふれる優しい男で、無理をして悪者を演じているだけなのだと。
自分は果たして正しくお酒が飲めてるのだろか。
もしも20歳になって、お酒の免許取得が義務化するとしたならば必須のお店ですね。