川西星輝は怒りを買っていた
川西星輝はその名の通り、輝く星を纏った美しい青年であった。
まず第一に、彼は私の480倍ほど整った顔立ちをしている。彼と並んで街を歩けば、様々な人たち(主に若い女性)からの視線が集まるため、まるで自分まで『ひとかどの人物』になったかのような錯覚に陥ることもあった。虎の威を借る狐、あるいはジャイアンに仕えるスネ夫はこんな気持ちなのかと、よく感心をしたものだ。
一般的な男性にとって『星輝』という名を与えられることは、必ずしも名誉なことではない。なぜなら、誰かがその名を耳にするたびに(たとえば受付で呼び出されるなど)、否応なく好奇と期待の目を向けられてしまうからだ。「ほう。星輝と名乗るからには、星の王子さまか何かなのだろう。どのように輝いているのか見せてもらおうじゃないか。」と。
そして残念なことに、世の中にはその看板の重みに押しつぶされてしまう者も少なくはない。小太りの俊や嘘つきの誠、あるいは、ふしだらな純がいるように。
しかしこと川西星輝においては、そのような心配はまったくの杞憂だった。彼の輝きには星という星をかき集めても太刀打ちができなかったため、私はむしろ星たちに同情をしなくてはならなかった。
ある快晴の夜、私はいつものように星たちを一通り慰めたあと「何か彼に言いたいことはあるかい?僕の方から上手く伝えておくよ。」と言ってみた。もっとも輝いていた金星は、われ先に物言わんと鼻息を荒くしていた。どうやら一番の座を奪われたことに心底腹を立てているようだった。
「許すまじ。あの星輝という男は、ただ顔が良いだけでなく頭脳も明晰で体力も並外れている。まだ若造なのにマセラティに乗り、高い年収を得ているそうじゃないか。100回の鞭打ちの刑のあと口から濃硫酸を流し込んでいただきたい。」
二番手の木星も今にも爆発しそうな様子で「さもありなん」と金星に便乗してこう言った。「ゆめゆめ許すまじ。あの男はそれでいて高慢なところがなく上品で物腰が柔らかい。生態系が崩れるほど女を虜にしている。10分ほど水に沈んでもらい、最低48時間は土下座を強要したい。」
なるほど、彼らの怒りは頂点に達していた。木星に爆発されては困ったことが起こりそうなので、私は星輝に相談するため食事に誘った。
「お誘いいただきありがとうございます」と、彼は全財産を差し出したくなるような笑顔で現れた。足元には、四年前の誕生日に贈ったスニーカーが(今でも丁寧に磨かれた姿で)あった。やれやれ彼はそういう人物なのだ。
木星が爆発したいならそうすればいい。そう思いながら我々はシャルドネで乾杯した。
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