雅エイジは短剣を振り回す海賊だった
雅エイジは、突如豪華客船に現れた短剣を振り回す海賊だった。
2022年の秋、私はとある船の上でエイジと出逢った。ラム酒のおかわりを求めて船内のバー・カウンターへ向かう途中に、廊下でよろめき歩くエイジと遭遇した。彼なりに服装に気を遣ったのだろう…頭には羽の生えた三角帽が、両手にはコンパスと短剣が、腰には地図とピストルが装備されていた。たしかにここが海賊船であれば悪くない服装だが、あいにく我々が乗り合わせた船は、洗練された紳士淑女が集う船上レストランだったので、エイジ船長の姿は、成田の入国審査に『脱税』と書かれたTシャツを着た西洋人のように悪目立ちをしていた。
「なぜそんな格好をしているんだい」と尋ねると、「海賊の格好をすれば乗客たちが慌てふためくと思ったんだ」と残念そうに話した。私はすぐに彼のことが好きになった。「船長、ラム酒をご馳走させてくれ」そう言うと、「キャプテンだ。キャプテン・エイジと呼んでくれ」と訂正された。そうして我々はチームを組むことになった。何だってやれそうな気がした。しかし実際にキャプテンが最初にやらなければならなかったのは、駆けつけた警備員に剣とピストルが偽物だと証明することだった。
キャプテン・エイジはなかなか興味深い人物だった。羊飼いの少年のように無垢さを見せたかと思えば、古城に住む錬金術師のように哲学を述べることもあった。「人を惹きつける人物になりたいなら若い心(惹)を失ってはいけない」とか、「心から何かを望むなら、全宇宙が協力してくれる」といった気の利いた台詞を話した。
彼は言葉だけではなく『行動する冒険家』であり、どんな選択にも躊躇いがなかった。大学を辞めるとか、親しんだ街を離れるとか、見知らぬ国で働くみたいな決断をするときにも、まるで週末のゴルフ・レッスンをキャンセルするかのように素知らぬ顔でやってのけた。スペインの血が入っていることもあり、気持ちよく酒を飲み、音楽に合わせて踊り、イルカのように海を泳いだ。略奪行為こそしなかったが、その他は海賊そのものだった。
そんなキャプテンは最近、珊瑚礁で名高いオーストラリアの海岸に移り住んだらしい。先住民たちと怪しい薬草に興じるつもりなのかもしれないし、沈没船から宝物を盗み出すつもりなのかもしれない。いずれにしても海賊王を目指すキャプテン・エイジなら、何をおっ始めても不思議はないだろう。もし彼と出逢うことがあれば、右手の掌の強運の相に触れると良い。大海賊になる者だけが備え持つ運気を分けてもらえるから。
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