2024-04-11

松本麻希はローソンを憎んでいた

松本麻希は、コンビニのローソンを心から憎んでいた。

彼女の訴えによると、ローソンのホット・コーヒーは、他のコンビニのものと比較して、酸味と苦味のバランスが悪く、濃淡に品格がないとのことだった。焙煎具合は不安定で、余韻は頼りなく、高級モカ・ブレンドは胡散臭い。褒められる点があるとするならば、紙カップの質感とロゴ・マークくらいのものなのだと。麻希はローソンを見かける度に、そのような(難癖に限りなく近い)批評をしていたので、私は「君がそんなに言うなら、ひとつ試してみようじゃないか」と、何杯ものコーヒーを飲む羽目になった。

せっかくの機会なので私も麻希に習い、ローソンのコーヒーを評論することにした。たしかにメガ・サイズだけは、どういう心持ちのときに注文するべきなのかわからないが、少なくとも味については、十分に美味しいと感じた。もちろん、ブリュワーズ・カップのチャンピオンが淹れる『ヌグオ農園の珈琲』と比較すれば物足りなさはあるかもしれないが、そもそも我々が飲んでいるのはワン・コインのコーヒーなのだ。挽き立ての豆を使ってくれているだけで、感謝することはあっても、文句を言うのはいささか厳しいのではないか。私がそう言い返すと、「それは貴方の舌が蝉みたいに馬鹿なのよ」と呆れた顔をされてしまった。

念の為、彼女の名誉のために断っておくと、麻希は品の良い家庭で育った社長令嬢で、飛騨牛と宮崎牛の違いや、檜と檜葉の香りの差を言い当てられるほど優れた味覚と嗅覚を有していた。熱心な働き者で、自身でも会社を経営していたため、事業者側の気持ちが理解できる女性でもあった。実際にローソンの『三元豚の厚切りロース・カツサンド』は高く評価していたし、『春雨入りソルロンタン』は、胡椒のアクセントの付け方が本場ソウルに近いと感心していたこともあった。だから彼女が、コーヒーに辛辣な苦言を呈するのは、決してローソン・グループ全体に対する個人的な怨恨で(それがどのような恨みなのかは想像もできないが)言っているようには思えなかった。

あれ以来、私は可能な限りローソンに足を運び、彼女の言う《頼りない余韻》というのが、いったい何を意味しているのか、真剣に探そうと努力している。この活動を始めてそろそろ一年が経つが、ついに見つけられていない。麻希の言わんとしていることが解るという方がいれば、どうか教えていただけないだろうか。

 

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コメント1件

  • 貴子 says:

    ローソンに今すぐ駆け込みたくなりました。
    てことは、松本麻希さんは実はローソン側の人間だったりして。いい評価も気になるけど、悪い評価の方が気になりますね。自分の舌はどう感じるのか、蝉ほどなのか。せめて牛並であってほしいものです。

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